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第一章・2

「涼雅、お茶にしようよ。温かいハーブティーを淹れるよ」 「翠さま。わたくしが淹れましょう」 「いいから、座ってて。僕の楽しみを、取り上げないで」  そういうわけもいかず、涼雅は翠の隣に立つ。  彼が熱湯で火傷を負わないように、気を配る。  彼がカップを割って手を切らないように、配慮する。  やがて、魔法の薬のようなハーブの香りが、翠の部屋いっぱいに漂った。 「うん、良い香り」 「いつもながら、さすがですね。翠さま」  茶器をワゴンに乗せて、涼雅は翠の部屋に設けられた簡易キッチンからリビングに移動した。  リビングのテーブルには、まだチェスの駒がそのままにある。 「これは失礼いたしました」 「いいよ、いいよ。僕が片付けるから」 「いえ、わたくしが」  手早くチェスをケースにしまう涼雅を見ながら、翠はちょっと言ってみた。 「ね。涼雅は、わざとチェスに負けてくれるんだよね。いつも」  わずかに涼雅の手運びが止まったが、次の瞬間にはすぐに翠の方に向き直っていた。 「そのようなことは、ありません。チェスの腕は、翠さまが勝っておいでですよ」 「ホントかなあ」  そんな翠に涼雅は優しく微笑み、ティーポットを差し出した。 「さあ、お茶にしましょう」 「うん」  白磁のカップに、淡いグリーンのハーブティーが注がれた。

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