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第一章・3

「レモンピールに、レモンバーム。バタフライピー。爽やかな味わいがあるね」 「とても美味しゅうございます」  その涼雅の言葉を、翠は嬉しく思っていた。  主人である自分は、使用人である涼雅に尽くすことはできない。  そんなジレンマを唯一和らげてくれるのが、このお茶の時間だった。  自分が育て、収穫したハーブで、涼雅のためにお茶を淹れる。  いや、ハーブを育てる時からすでに、想いはこもっているのだ。 (どうして涼雅は、使用人なんだろう。アルファなんだから、どこかの御曹司に生まれついて欲しかったな)  涼雅の父・能登 新一(のと しんいち)は、この坂城家の執事だった。  一昨年、心不全で他界したが、翠の父・武生(たけお)が涙するほどの忠義をつくした。  その息子である涼雅もまた、父に似て生真面目で実直な気質を持っていた。  そしてそれは、翠に注がれ続けていたのだ。  どんな時も、何があっても常に楯のように守ってくれる、涼雅。  そんな彼に、翠は思慕を寄せるようになっていた。

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