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第一章・4

「どうなさいました。溜息など」 「ううん、何でもない」  お茶の緑に目を落としながら、考える。 (涼雅がこんなに優しいのは、僕が坂城家の息子だからだよね)  それ以上でも、それ以下でもないだろう。 (そして、僕がオメガだから、かもしれない)  そんな風にも、考えた。  アルファ性の人間は、オメガ性の人間に庇護欲を覚えることがあるという。 (あ、でも。お父様も、お兄様も、アルファだけど僕に結構冷たいよね……)  厳格な父・武生は、名門坂城家の当主だ。  事業も手広く行っており、トップに立つ人間の持つ威圧感に満ちた男だ。  それは翠に対しても、向けられていた。  幼い頃から、厳しく躾けられてきた翠だ。 『オメガだから、という言い訳は一切認めないからな』  こんなことを言われ続けて、必死に耐えて頑張って来た。 (でも、おかげで涼雅にチェスで勝てるようになったけど)  オメガだから、と甘やかされた記憶は無い。  いや、父に甘やかされた記憶が、無い。  母を早くに失くした翠にとって、父親は絶対の存在だった。

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