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第一章・5
翠にはほかに、二人の兄がいた。
両者とも、父と同じアルファ性だ。
幼い頃から優秀で、何をやってもすぐに上達した。
翠が一か月かけて習得することを、兄は難なく一週間でやってのける。
茶の湯に、乗馬。ゴルフに、チェス。
全て兄の方が一枚も二枚も、上手だった。
その兄たちは大学進学後、すでに社会に出て父の事業を助けている。
この坂城家を、さらに豊かにするべく働いている。
そして、父もそんな兄たちを誇らしく思い、大切に扱っていた。
しかし翠は、高等科をこの春に卒業したが、大学進学はしなくてもよい、と先だって父に申し付けられた。
受験は、したのだ。
有名難関大学を二校受験し、どちらも合格した。
今度こそ父に褒めてもらえる、と思った翠だったが。
『大学進学は、しなくてもよい。理由は三日後、私の部屋で話そう』
こんなことを言い出され、少々面食らっていた。
「お父様は、僕をなぜ進学させてくださらなかったのかな」
「それをお聞きするために、本日旦那様のお部屋へ行かれるのですよ」
ハーブティーのカップで両手を温めながら、翠は浮かない顔をしていた。
父からの、呼び出し。
それは、喜びより不安の方が勝っていた。
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