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第一章・6
定刻の5分前、翠は本屋敷の父が住まうフロアに来ていた。
そして、ここが父の使うリビング。
「涼雅に、ついてきてもらえば良かったな」
そう思うほど、翠は緊張していた。
お父様は、僕に何とおっしゃるんだろう。
予想もできず、ただ震える手でドアをノックした。
すぐにドアが開き、父の執事がうやうやしく翠を迎え入れた。
「旦那様。翠さまがお越しになられました」
その声には、父はすぐに反応しなかった。
大きな革製のクッションに身を沈め、タブレットで何か作業をしている。
用向きが済んだのか、ようやく顔を上げて翠に声をかけた。
「こちらへ来なさい」
「はい」
翠は、粗相のないように気を付けながら、父に近づいた。
「掛けてよろしい」
「ありがとうございます」
父の斜め向かいに腰掛け、翠は背筋を伸ばした。
テーブルに置いてあった洋酒のグラスを傾け、父は機嫌が良さそうだ。
だが、その口からは不吉な言葉が放たれた。
「翠。お前、結婚しなさい」
「えっ……!?」
翠は、息を飲んだ。
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