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第一章・8

「いきなり知らない人と、結婚しなさい、なんて」  その場にうずくまってしまいそうになるのをこらえていると、駆け足の音が聞こえた。 「翠さま!」 「……涼雅!」  翠は、すがるように涼雅の体にもたれかかった。 「旦那様のところの、斎藤さんから内線がありまして。お迎えに上がりました」  心配そうに体を支えてくれた、執事の顔が思い浮かんだ。 (ありがたいな。すごく、ありがたいよ)  心の中で、翠は何度も彼にお礼を言った。 「失礼します」  ひょい、と涼雅は翠を背負った。 「だ、大丈夫だよ。自分で歩けるから」 「いいえ。このままお部屋へお連れ致します」  翠は、涼雅の広い背中のぬくもりを感じていた。  温かな、体。 「旦那様は、何とおっしゃったのですか? わたくしでよければ、話し相手に」  温かな、心。 「うん。涼雅になら、話そうかな」  思いを寄せる相手に、自分の縁談を伝える。  そんな悲しい気持ちを胸に、翠は涼雅の背中で揺られていた。

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