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第二章 毒牙
翠の縁談を耳にして、動揺したのは本人ばかりではなかった。
「あまりにも、早急ではございませんか?」
誰よりも。
そう。父親の武生よりもずっと近くで翠を見守って来た、涼雅だ。
彼が18歳の若さでこの屋敷を離れる、と聞いて心穏やかではなかった。
「僕だって、そう思うよ。でも、お父様の決めたことだから」
そう言う翠の目は、少し赤い。
涙目の主人を、涼雅はただいたわった。
「今夜は、もうお休みください。ご婚約は、本決まりではないのでしょう?」
「うん……。明日、そのお相手が。有島さまがいらっしゃるって」
では、なおのこと早く眠っておかなければ。
「初対面のお相手に、お疲れの御様子をお見せしてはなりませんよ」
「解った」
翠が寝支度をし、ベッドルームへ消えるまで、涼雅は彼を見守っていた。
そんな彼の思いやりが、翠には嬉しくもあり、もどかしくもあった。
「涼雅。僕を有島さまへは渡さない、とは言ってくれないんだね」
仕方がない。
一介の使用人に、そんな意見が言えるわけもない。
ただ、明日のお見合いに、涼雅を同席させてもらえないか、お父様にお願いしてみよう。
(どうか、お父様が良いお返事をしてくれますように)
そう祈りながら、翠は眠りに就いた。
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