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第三章・4
「翠さま、どうかなさいましたか? ここを開けてください」
「一人になりたいんだ。放っておいて」
青白い顔で北の屋敷へ戻って来た翠を案じて、涼雅は駆け寄った。
しかし彼はバスルームへ直行し、誰も傍に置こうとしなかった。
「う、うぅ。っふ、うぅ、う……」
嗚咽を漏らしながら、その肌を赤くなるまで洗い清めた。
体内から出てきた穢れにまみれた精も、シャワーで流した。
それでも、その心にべっとりと張り付いた記憶だけは消せない。
「僕。僕……!」
泣きながら、翠は丞の言葉を思い出していた。
『体の相性も試していい、って。そうお許しをいただいてる』
父の仕打ちに、胸がつぶれそうだ。
『いずれ一緒になったら、毎晩こうするんだ。早く慣れろよ」
真っ暗な未来に、気が遠くなりそうだ。
自分の全人格を、否定された。
そんな気持ちを、噛みしめていた。
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