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第三章・5

 翠がバスから出てきた時には、すでに空は夕焼けに染まっていた。  もうすぐ、日が暮れる。 「暗くなる前に」  涼雅と顔を合わせないよう、翠はそっと裏口から庭に出た。  汚れた自分を、涼雅に見せたくはなかったのだ。  小走りで、ハーブガーデンへ急いだ。  温かなハーブティーを飲んで、もう眠ってしまおうと考えていたのだ。  しかし、ハーブガーデンの隣にある、薬草園で翠の足は止まった。  薬草の探求も、翠の趣味の一つだ。 「僕は。僕は、チェスの駒なんだ。お父様の操る、駒の一つなんだ……」  そして、有島さまと結婚させられる。  この坂城家を、いっそう豊かにするために。  そう思うと、涙が止まらない。  にじむ視界に広がる薬草を、手当たり次第に摘んだ。  すぐに籠一杯の薬草を摘み終わると、翠は急いで部屋へ戻った。  リビングの隣に据えられた簡易キッチンで、翠は摘んだ薬草を鍋で煮た。  ハーブより青い香りの強い、薬草のエキス。  翠は何度もそれを繰り返し、茶碗一杯の得体のしれない薬を作り上げた。  植物には、現代の科学でも解明されていない成分が含まれていることがある。  少量では薬でも、多量に摂ると毒になる。  翠は、それを承知でこの薬を作り上げていた。 「お父様のご命令で、有島さまと結婚させられるくらいなら!」  そして、一気にその毒をあおった。

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