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第三章・7

 三日三晩、翠は意識不明で苦しみ続けた。  傍には、涼雅の姿があった。  不眠不休で、小さな主人を見守った。 「翠さま。お可哀想に……」  それほど、有島さまとの縁談を嫌がっておいでだったのか。  その丞に、初対面で体まで差し出さねばならなかったことは、誰も知らない事実だ。  それを容認した父の薄情も、気づかれなかったところだ。 「しかし、旦那様も、お見舞いにくらい来てくださればよろしいのに」  父・武生は、涼雅や医師に、翠が自ら服毒したことを絶対に他に洩らすなと命じた。  そしてそれきり、一度も翠の顔を見には来ないのだ。  自分が、翠をそこまで追い詰めたにもかかわらず、だ。  兄たちが一度だけ、容体を見に来たが、彼らも翠がなぜこのような有様になったのかは知らない風だった。  多忙を理由に、やはり兄たちも翠を放っている。  大きなお屋敷で、何不自由なく育った、翠。  だが、彼に向けられる愛情の希薄さを、涼雅は改めて思い知っていた。 (わたくしが、ついています。翠さま)  ですから。 (ですから、戻ってきてください。また一緒に、チェスをいたしましょう。お茶を、いただきましょう)  涼雅は毎日、翠の手を取って祈り続けた。

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