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第三章・8

 四日目の朝、翠に変化が現れた。  小さな白い手を、涼雅はずっと握っている。 「翠さま、どうか。どうかご無事で……」  握るその手に、わずかに力がこもった気配がしたのだ。 「う……」 「翠さま!?」  意識が。  意識が戻ったのだろうか!  控えていた医師も、途端にそわそわと動き始めた。 「先生、翠さまが目を開かれました!」  涼雅は、喜びに満ちた声を上げた。  ああ、良かった!  だが、翠の虚ろな目は涼雅を見止めてはくれなかった。  ただ、周囲を探るように泳ぐだけだ。  そして、最後にようやく自分の手を取る人間を見た。 「……誰?」  涼雅の浮かれた気分は、一気に叩き落された。 「翠さま、涼雅です。お解りですか?」 「解らない。ここは、どこ? 僕は一体……」  涼雅を押しのけ、医師が割って入った。  医療機器を確認したり、採血をしたりと忙しい。  その光景を、涼雅は震えながら見ていた。 (翠さまは、確かに死の淵から生還された。しかし)  しかし、大きな代償を払われたのでは、ないだろうか。  あまりにも不吉な予感に、涼雅はただそこに、立ちすくむしかなかった。

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