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第四章 希望と不安
涼雅の祈りが、届いたのだろうか。
翠の容体は、緩やかに回復していった。
医師の許可を得て、涼雅はある日、茶器をワゴンに乗せて病室へ運んだ。
「翠さま、お茶にいたしましょう」
「ありがとう、涼雅さん」
『涼雅さん』と呼ばれるたびに、胸の痛む涼雅だ。
それは、まだ記憶が戻っていないことを表している指標だからだ。
翠は、一命を取り留めた。
だが、その代償として記憶障害を起こしてしまったのだ。
医師は、難しい顔だ。
「毒物の成分だけで、記憶障害が引き起こされるとは考えにくいのです」
何らかの、心身への大きな負担があったのでは?
「そう考えれば、翠さまが自ら毒物を口にされたこととも腑に落ちます」
もちろん、父・武生は、翠の身に何があったかなど話さない。
「気力体力共に劣る、オメガ性であるがゆえ、か」
そのような差別的一般論で、お茶を濁していた。
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