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第四章・2

「翠さまのお好きな、ミントティーを用意いたしました」 「僕は、ミントティーが好きだったんだ……」  記憶のないもどかしさに、日々擦り切れる翠を、涼雅はいたわった。 「飲めばきっと、お気に召しますよ。さあ、どうぞ」  白磁の茶器に、淡い琥珀色のお茶が湯気を立てている。  それを、そっと手に取り、翠は口にした。 「あったかい」  それに、とても爽やか。 「美味しい、涼雅さん」 「それは良うございました」  もう少し回復されたら、チェスを楽しみましょう。  お茶のお供をしながら、涼雅は笑顔で語った。 「翠さまは、チェスがお得意で。わたくしなど、いつも負かされておりました」 「涼雅さんが? 信じられないなぁ」  記憶を失くした翠が、今一番心を開いている人間は、涼雅だった。  いつも、傍についていてくれる。  いつも、優しく見守っていてくれる。 「ですが、翠さま。わたくしのことは、涼雅、とお呼びください」  そう言って、いつも困り顔の彼を見ることも、もう慣れた。 「でも、涼雅さんは僕より年上でしょう? 年長者は敬うべきだと思うんだ」  そんな風に、困る涼雅に飄々と言ってのけていた。

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