23 / 140
第四章・2
「翠さまのお好きな、ミントティーを用意いたしました」
「僕は、ミントティーが好きだったんだ……」
記憶のないもどかしさに、日々擦り切れる翠を、涼雅はいたわった。
「飲めばきっと、お気に召しますよ。さあ、どうぞ」
白磁の茶器に、淡い琥珀色のお茶が湯気を立てている。
それを、そっと手に取り、翠は口にした。
「あったかい」
それに、とても爽やか。
「美味しい、涼雅さん」
「それは良うございました」
もう少し回復されたら、チェスを楽しみましょう。
お茶のお供をしながら、涼雅は笑顔で語った。
「翠さまは、チェスがお得意で。わたくしなど、いつも負かされておりました」
「涼雅さんが? 信じられないなぁ」
記憶を失くした翠が、今一番心を開いている人間は、涼雅だった。
いつも、傍についていてくれる。
いつも、優しく見守っていてくれる。
「ですが、翠さま。わたくしのことは、涼雅、とお呼びください」
そう言って、いつも困り顔の彼を見ることも、もう慣れた。
「でも、涼雅さんは僕より年上でしょう? 年長者は敬うべきだと思うんだ」
そんな風に、困る涼雅に飄々と言ってのけていた。
ともだちにシェアしよう!