28 / 140
第五章 新しい一歩
「素敵! 可愛らしい小屋だね!」
「いえ、翠さま。ここは私どもの働くカフェです」
郊外にある、ログハウス風のカフェに、涼雅と翠は到着した。
売店舗になっていた建屋を、涼雅が買い取ったのだ。
ここで、翠と二人で静かに暮らすつもりだった。
「翠さまには、主にハーブティーを淹れていただくつもりです」
「僕が得意だったこと、だね?」
その前に、掃除をしないと!
長い間放置されていた店は埃だらけで、観葉植物は枯れ果てている。
「清掃業者に頼みましょうか」
「ううん。僕、掃除をしてみたい」
涼雅は、そう言う翠にマスクを掛けさせ、ほうきを与えた。
「跳ね上げないように、そっと。そう、お上手ですよ」
「楽しいね!」
掃き掃除は翠に任せ、涼雅は拭き掃除をがんばった。
「お疲れでしょう。そろそろ、お昼にいたしましょうか」
「うん。なかなか綺麗にならないものだね」
カフェの二階が、居住スペースになっている。
そこで二人は、涼雅のこしらえたおむすびを食べた。
「翠さま。たくさんお召し上がりください」
「とっても、美味しいよ!」
おむすびの具は、梅干しと瓶詰の鮭フレークだ。
(お屋敷では、桜エビのおむすびを食べていらしたというのに)
この質素な暮らしに、翠が果たして耐えられるかどうか。
意地で彼を外に連れ出したのは、正解だったのか?
彼が音を上げるようならば、すぐにでも屋敷に戻る覚悟の涼雅だった。
ともだちにシェアしよう!