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第五章・3
「コーヒーには、こんな落ち着いた色と形のカップがいいな」
「ハーブティーは、微妙な色合いを楽しんで欲しいから、ホワイトで」
「このプレート、面白い形してるよね!」
量販店の食器売り場で、翠は生き生きと振舞っていた。
もとより芸術的センスに秀でていた、翠だ。
実に楽しそうに、品定めをしている。
「後で、ネットで似た品を探してみましょう。卸値で手に入るサイトもありますから」
「うん、それでいいよ」
上機嫌の翠に、涼雅はそっと白磁のカップを差し出した。
「翠さま。こちらの品は、いかがでしょう」
「素敵! だけど、高くないかなあ」
「これは、わたくしから翠さまに。贈り物として差し上げます」
「本当!?」
嬉しいな、と翠はカップを手に取り愛おしそうに撫でた。
(坂城家の御子息ともあろう御方が、このような安物を喜んでおいでとは)
そのことに涼雅は胸を痛めたが、翠は喜びに満ちていた。
「涼雅さんからのプレゼント。大切に使うよ」
彼にもらえるものなら、穴の開いたどんぐりだって嬉しい。
そんな風に、翠は考えるようになっていた。
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