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第五章・5
『はい。自然をこよなく愛しておいででした』
愛していた。
僕は、植物を。
自然を、こよなく愛していた。
(何だろう。他にも、心から愛していた対象があったような……)
「翠さま?」
「あ、ううん。何でもない」
お疲れなのだな、と涼雅は翠を手近なカフェへといざなった。
平日の午後だが、カフェは思いのほか混んでいた。
「翠さまは、何になさいますか?」
「ここはやっぱり、ハーブティーを試してみるよ」
他店がどの程度のお茶を提供しているか、気になるところだ。
「偵察、しなきゃね」
「さすがです、翠さま」
しかし、と涼雅は言う。
「必死で儲けよう、などと考えなくてもよいのです。翠さまは、リハビリのおつもりでいてください」
「リハビリ?」
「そうです。あなた様は、まだ患っていらっしゃる。そのことを、お忘れなきように」
そうか、と翠はそこでようやく、自分が病気だったことを思い出した。
涼雅と二人で暮らすようになってからこっち、そんなことなど忘れていた。
あまりに楽しく、心安らぐ日々。
それが、翠を病の気分から遠ざけていた。
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