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第五章・6
「大丈夫だよ。お薬をきちんと飲んでいるし、それに」
それに?
一拍呼吸を置いて、翠は口にした。
「涼雅さんが、いてくれるから」
ああ、言葉にすると、確信する。
(僕は多分、以前からずっと涼雅さんのことを好きなんだ)
『はい。自然をこよなく愛しておいででした』
自然が好きで、ハーブティーが好きで。
(そして、涼雅さんを愛していたんだ)
そう認めるだけで、心に力が湧いてくる。
体に、エネルギーが駆け巡る。
「せっかくだから、うんとお客様が来るカフェにしようよ!」
「では、後ほどメニューを決めましょう」
微笑む涼雅を間近に見て、翠は顔が熱くなる心地を覚えた。
(僕は、愛していた。この人を)
それは記憶を失くしてから、初めて知った過去だった。
そして、前に踏み出す一歩だった。
(僕は、愛している。この人を)
この人となら、どんな境遇に置かれても進んで行ける。
翠は、初めて未来へ進み始めた。
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