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第六章・3
「翠さま、お許しください」
涼雅は体を起こし、彼を起こさないように静かに身を寄せた。
そして、その唇にかすかに触れるだけのキスをした。
「ん……」
翠が身じろぎし、涼雅は飛び上がるほど焦った。
フリーズし、そのまま翠の動きを測る。
だが幸いに、それだけで彼はまた深い眠りの底へと落ちて行った。
「やはり、許されないことはするもんじゃないな」
息をついて、涼雅は横になった。
それでも、想いはぬぐえない。
消すことなど、できない。
「いつか、この恋が。許される時など来るのだろうか」
翠の自分への好意は、忠義を尽くす使用人へのご褒美だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
こんな風に考えている、涼雅だ。
「もし、この先で翠さまに想い人が現れでもして」
それでも私は、今まで通りに翠さまを愛し続けることができるのだろうか。
そうなったら。
そうなったら、彼をさらって遠くへ逃げてしまいたい。
誰も知らない場所に隠して、愛し続けたい。
「いかん。私も、緊張しているんだ」
軽く首を振って、涼雅は瞼を閉じた。
いやでも応でも、明日は新しい扉が開くのだ。
涼雅もまた、眠るしかなかった。
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