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第六章・6
一日働き、翠は心地よい疲労を感じていた。
「結構、忙しかったね」
「翠さま、お体の具合はいかがですか?」
血圧測定などの、簡単な健康診断をし、涼雅はそのデータを坂城家の主治医に送った。
「大丈夫だよ。すごく、楽しかった!」
「明日も明後日も、このような日々が続きます。できそうですか?」
「平気平気。涼雅さんは、心配性だね」
チップまでもらった、と翠はエプロンのポケットから黒糖飴を一粒取り出して見せた。
「すごくお優しい、老夫婦のお客様がいらしてね。飴をいただいたよ」
「それはそれは。きっと翠さまがよく働いておいでだったからでしょう」
うん、と翠は明るい笑顔だ。
「まだ若いのに偉い、って。褒めていただけたよ!」
無邪気に喜ぶ翠に、涼雅は少々悲しくなった。
(旦那様には、褒めていただいたことがあられないので。こんな飴一つでも嬉しく思われるのだろうな)
思いを振り払うように、涼雅は首を小さく振った。
「さあ、お夕食にいたしましょう。お腹がすいておいででしょう?」
「うん。ぺこぺこ」
こんなにお腹がすくのは久しぶり、と考えたところで、翠は思い当たった。
(僕は、あまり食欲を覚えない人間だったのかな)
少し、過去の自分が解った。
ほんの些細なことではあるが、それも嬉しい翠だった。
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