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第六章・7

 夕食を摂り、バスを使い、パジャマに着替えた翠は、ベッドの中で涼雅に話しかけていた。 「ねえ、涼雅さん。以前の僕は、働かない人間だったのかな?」 「いいえ。なぜ、そのようなことを?」 「僕、今日は一生懸命に働いて。それでお腹がすごくすいたんだ」 「わたくしの作る食事などを平らげてくださって、嬉しゅうございました」  そこで翠は、過去の自分は、あまり食欲を感じない人間だったことを思い出したのだ、と打ち明けた。 「お腹がすくまで動くことのない人間だったんだな、って思って」 「翠さまは、坂城家の中で、一番よく働かれる御方でしたよ」  乗馬の馬に会いに行ったり、茶の湯で使う茶碗を自ら作ってみたり。 「ハーブガーデンや薬草園の手入れも、よくなさっておいででした」 「薬草園……」  どうしたんだろう。  急に、胸が苦しくなって……! 「涼雅さん、手を握ってくれる?」 「どうかなさいましたか!?」  顔色の変わった涼雅に、翠は無理に笑って見せた。  彼に、心配を掛けたくない。  その、一心だった。 「何でもない。ちょっと、甘えたくなっただけ」  涼雅の手を握ると、胸の痛みは和らいだ。  呼吸も、穏やかになっていった。 「涼雅さんと一緒なら、大丈夫。何があっても、乗り越えられるよ」 「翠さま」  涼雅は、翠にそっと近づいた。  彼は、ためらいもせずその胸に深く入り込んで来る。 「わたくしも、翠さまがおいでなら、どんな苦難も跳ね返しましょう」  二人で腕を伸ばし、抱き合って眠りに就いた。  温かなぬくもりを分かち合い、穏やかな夢を見た。

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