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第七章・5

 同じ屋根の下に、暮らしているんだから。 「キスくらい、もう済んでると思ってたけど。まだかぁ」  いけない。  何だか、ドキドキしてきた。 「青海くん、この話は、もうおしまい!」 「いいところだったのに」  しかし青海は意地悪ではなかったので、話をもう蒸し返しはしなかった。  翠はというと、突然の現実を突きつけられて、一人深呼吸をしていた。 (涼雅さん。涼雅さんは、本当に僕のことを好きなの? 好きでいてくれてるの?)  どちらかというと、彼に迷惑を掛けている、と負い目を感じている翠だ。 (そんな僕が、涼雅さんを好きだなんて。きっと負担だと思っていたのに)  それが、青海の目には違って見えていた。  翠を愛しているからこそ、涼雅は細やかに気を配っている、というのだ。  そんな、そんな。  もしそうだったら、僕はどんなに幸せか。 (でも……。キスの話になった途端、息が苦しくなりそうになったんだ)  この苦しさは、トラウマのフラッシュバック。 (僕は、キスで何か過去に嫌なことがあったんだ。多分)  いけない。  これ以上考えると、後の時間を働けない。  翠は、そっと頬を両手で軽く叩くと、椅子から立ち上がった。  この件は、今は保留。  そして、翠は休憩室から出て行った。

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