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第七章・6

「翠さま。本日の勤務は、いかがでしたか?」  カフェを閉めて、スタッフ間で終礼をした後、涼雅は改めて翠だけに一日の振り返りを求める。  もちろん、他のスタッフはもういない。  二人きりで行う、翠のためのミーティングだった。 「お茶は、満足のいくように淹れられましたか?」 「翠さまを困らせるようなお客様は、いませんでしたか?」 「体調が悪くなられたり、しませんでしたか?」  大丈夫、といい返事をしていた翠だったが、最後の件でつい鈍った。 「どうか、されましたか」 「少し、息苦しさがあったよ」  それはいけない、と涼雅はどこまでも優しい。 「何か、思い当たることが?」 「うん。あの、その。青海くんとお喋りしてたら、キスの話になって」  両手をぶんぶんさせて、翠は嘘の言い訳をした。 「映画! 映画の話! キスシーンとかあるでしょう!? だから!」  しかし涼雅は眉をひそめていた。  翠は以前、有島に純潔を奪われたのだ。 (その際に、無理にキスをされたに違いない)  深刻な表情になってしまった涼雅に、翠は不安になった。 「涼雅さん。もしかして、僕。過去にキスで何かあったのかな?」  だから、呼吸不全に陥りかけて……。 「翠さま」 「涼雅さん、知ってるよね。僕が記憶を失った理由。話してくれないかな」 「今は、お伝えできません」  翠の瞳から、涙が一粒こぼれた。 「涼雅さん。僕、辛いよ」 (今のままでは、涼雅さんとキスもできないんだ。僕は)  ただ、辛い、と言い続ける翠を、涼雅はその胸に抱くしかなかった。  雛を守る親鳥のように、その翼で守るしかなかった。

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