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第八章・2
「でも、一つだけ不満があるよ」
涼雅は、首を跳ね上げた。
「何でございましょうか!? おっしゃってください。改善いたします!」
「不満というか、お願い。涼雅さんも、僕と同じ席に座って、一緒に朝食を摂って欲しいな」
涼雅はいつも食卓の傍らに立って、翠に給仕をしているのだ。
「そ、それは、できかねます」
もう、と翠は唇を尖らせた。
「ここはもう、お屋敷じゃないんだよ? 涼雅さんと一緒に、食べたいよ」
「しかし」
「時短にもなるし」
「ですが」
「お、ね、が、い」
可愛く小首を傾げられると、もう降参せざるを得ない。
おずおずと、涼雅は翠の正面に腰掛けた。
(翠さまのお姿が、目の前に)
それだけでも、頬が熱くなる心地だ。
緊張して味のしないクロワッサンを頬張っていると、翠の腕がこちらに伸びてきた。
「涼雅さん、頬っぺたにパン屑が付いてるよ」
「これは失礼いたしました」
だが、翠のアクションは止まらなかった。
涼雅の頬に付いていたパン屑をつまむと、それを食べてしまったのだ。
「翠さま! そんな、そんな……!」
「ん? 何?」
「……恐れ多いことです!」
熱い頬は、見る間に赤くなる。
そんな涼雅を、特に口元を、翠は朝食の間中ずっと見ていた。
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