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第九章 記憶
『今度は、涼雅さんからキスしてくれる?』
何て難しい問題なんだ!
翠からの口づけを受け、涼雅は戸惑い焦っていた。
目の前には、潤んだ瞳で見上げる若き主人。
そして、その瞼が静かに閉じられた。
「翠さま……」
「今は、翠って呼んで」
「……翠」
涼雅は、その唇にそっとキスをした。
柔らかく、温かな感触。
途方もない歓喜が、涼雅を襲った。
その身が、震えた。
(ああ、ついに)
恋して焦がれた人に、私は口づけを!
閉じた瞼に、力がこもる。
このまま、愛してしまいたい。
その身も心も、一つになりたい。
しかし涼雅は、鉄の意志でそれを踏みとどめた。
唇を合わせるだけのキスに終わり、翠の髪を撫でた。
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