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第九章・3
医師に送った涼雅のメールには、すぐに返事が来た。
そしてそこには、思いがけないワードが記されていた。
『翠さまに、発情の兆しは見られませんか?』
「発情。これは……、迂闊だった」
確かに、突然キスを求めてきたりしたのだ。
翠がオメガ性である限り、まず可能性を疑うべきだった。
今後は留意する、と返事をし、涼雅は翠に目をやった。
そこには、エアコンを操作する彼の姿があった。
「ふぅ。何だか暑いよね」
リモコンを見ると、室内温度は24℃とある。
少し、寒いくらいだ。
翠さま、と涼雅は彼に近づいた。
「体が火照っておいでですか? 落ち着きがない、などの症状は?」
「よく解ったね」
そこで翠は、溜息をついた。
熱い、甘い吐息。
眩暈さえ引き起こしそうな、オメガフェロモンの気配。
「翠さま。お医者様に診ていただきましょう」
「どうして?」
「発情期が、お近いのかもしれません」
何気なく放った涼雅の言葉だったが、途端に翠の様子がおかしくなった。
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