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第九章・8
「う……」
「翠さま。気づかれましたか」
翠が瞼を開けると、そこには心配そうな涼雅の顔があった。
まだ、頭痛がする。
そして、悪夢が脳裏に残っている。
(僕は、有島さまに乱暴されて。そして……)
そして、薬草で毒を作って飲んだんだ。
思い出した事実に、押しつぶされそうになった時、それを救ったのは手に落ちた温かな涙だった。
「翠さま、良かった。もう二度と目を覚まされないのではないかと、わたくしは心配で……!」
弱弱しい翠の手をしっかりと握りしめ、涙をこぼす涼雅の姿。
(ああ、僕はまだ大丈夫。僕には、涼雅がついていてくれる)
「涼雅。心配かけて、ごめんなさい」
「翠さま?」
涼雅さん、ではなく、涼雅?
「翠さま。まさか、記憶が」
涼雅は、思わず彼の手を額に当てた。
申し訳ない。
(私の不用意な言葉で、翠さまは辛い過去を思い出してしまわれた!)
「僕、もうダメかと思ったんだけど。まだ、涼雅が傍にいてくれるから、生きていけそう」
「翠さま……!」
もう、私の全てをこの方に捧げよう。
私の世界全てを、あなたに差し上げよう!
涼雅は、うやうやしく翠の手に口づけていた。
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