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第九章・8
医師に診立ててもらい、注射や薬の処方、カウンセリングを受けた後、翠は涼雅とまた二人になった。
「翠さま、お夕食をお持ちしました」
「ありがとう、涼雅」
お粥をふうふう冷ましてもらい、食べさせてもらう翠。
その行為に、彼は自然と笑顔を見せていた。
「小さい頃も風邪をひいた時、こうやって食べさせてもらってたよね」
「幾つになっても、食べさせてあげますよ」
翠の言葉に、涼雅は確信を持った。
(幼い頃の話をなさるということは、本当に記憶を全て取り戻されたのだ)
しかし、それは良いことなのだろうか。
陰惨な事件がフラッシュバックし、心を痛めることにはならないだろうか。
「ねえ、涼雅。お食事はもういいから、バスを使いたいな」
「かしこまりました」
「背中を、流してくれる?」
「え?」
はい、とは答えたが、涼雅は不思議に感じていた。
背中を流すことは、それこそ幼い頃だけの話で、もうやめた習慣なのだ。
「でね。涼雅も一緒にバスを使って欲しいんだ」
「な、何ですって!?」
翠の真意が測れず、涼雅はただうろたえるだけだった。
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