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第十一章・5

 カップソーサーに、メリーゴーラウンド。  ダンジョンに、ゴーカート。  翠は童心に返って、はしゃいでいた。 「アトラクション、全制覇したいくらい!」  ミニカーに乗って涼雅に手を振る、翠。  そこには、どこにでもいるような、いわゆる普通の18歳の少年の顔があった。  コースの外から翠に手を振り返しながら、涼雅は今後の翠について考えていた。 「この笑顔を、曇らせたくはない」  絶対に。  だが、彼が記憶を取り戻してから、その父・武生の言葉がやけにちらつくようになった。 『お前に、あれを任せよう。記憶が戻ったら、ここに帰ってくるように』  ここに帰ってくるように、と武生は言ったのだ。 「旦那様は、翠さまを呼び戻して、どうなさるおつもりなのだろう」  今は医師の判断で、屋敷に戻ることはまだ早急すぎる、とストップをかけてもらっている。  しかし、いずれは帰らなければならないのだ。 「もし、また旦那様が、翠さまに無理な縁談をお勧めになられたら」  その時は、全力でお守りする。 「たとえ、旦那様に背くことになっても」  そこへ、翠が駆けて来た。  眩しい、笑顔。  この笑顔を、曇らせるわけには、いかない。  涼雅も笑顔で、彼を迎えていた。

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