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第十一章・6

「どうして最後のアトラクションに、観覧車をお選びになられたのですか?」 「いろいろと、考えるところがあって」  そう返事をすると、翠は涼雅の隣へと席を移動した。 「僕、涼雅にお願いがあるんだ」 「何でございましょう」  そこで翠は、涼雅を見上げた。 「これからは、僕のことを『翠』って呼んで」  それから。 「それから、他人行儀な喋り方も、やめて欲しい」  翠は、涼雅の腕に頭をもたれさせた。 「僕、涼雅のことが大好き。だから、対等な関係でいたいんだ」 「しかし」 「しかし、とか要らないから。うん、って言って欲しい」  そして、もう一度涼雅を見上げた翠の瞳には、涙が光っていた。 「すぐには無理だ、って解ってる。だったら、お店に。カフェで働いてる時だけでもいいから」  僕は怖い、と翠は素直に話した。 「今の暮らしが幸せ過ぎて、怖い。今にでもお屋敷からお迎えが来るんじゃないかって、怖い」 「翠、さま」  薄々、感じておいでだったのだ。 (翠さまは、お屋敷からのお迎えを予見しておられる)  それは、涼雅にとっても辛く悲しいことだった。

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