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第十一章・7
「だから、ね。お屋敷に居ない時だけでも、僕のことを翠って呼んで」
「解りました」
「言葉遣いも」
「……解ったよ」
涼雅は、後は何も言わずに翠を抱きしめた。
翠、翠と名を呼び、彼の頬を濡らす涙をぬぐった。
「あと、もう一つ」
「何かな」
「……キスして」
もう、ためらうことはなかった。
涼雅は、そっと翠に口づけた。
沈黙の時間は、果てしなく長かった。
それでも、足りない。
いっそ、このまま時間が止まってしまえばいい。
そんな二人を突然包んだのは、一斉に灯る園地内のイルミネーションだった。
「わぁ、素敵!」
「美しい」
明るくきらめく、虹色に輝く光。
「ね、未来は明るいよね」
「うん。絶対に大丈夫だ」
私が、ついてるから。
翠の肩を抱き、涼雅はひとつうなずいて見せた。
「涼雅には、僕がついてるからね」
「頼もしいな」
この子がいてくれれば、私はきっと大丈夫。
うなずく翠に、涼雅はもう一度キスをした。
固い誓いの、キスだった。
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