89 / 140

第十三章・5

 涼雅の舌は、まるでウブな少年のように、翠の咥内をさまよった。  迷った挙句に、その舌を捉えて絡ませる。  そんな彼を受け止めながら、翠は思い出していた。 (このキス、有島さまも……)  それを思うと、鼓動が激しくなる思いだ。  その時、涼雅が唇を離した。 「愛してるよ、翠」  ああ!  それこそが、今一番聞きたかった言葉!  翠は、しっかりと涼雅を抱きしめた。 「キス、って。こうするものなの?」 「こんなキスも、ある。ただ、それだけだ」  後は、舌を入れないライトなキスを、涼雅は何度も繰り返した。  全ては、翠のため。 (翠がこの体を私にくれるというのなら、私も全てを彼に捧げよう) 「ふふっ。くすぐったい」 「翠も、私にキスしてくれ」  二人で、長いことそうやってキスを交わした。  涼雅がそっとその首筋に唇を移すころには、翠の体からはすっかり力が抜けていた。

ともだちにシェアしよう!