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第十五章・3
医師は、あまり良い顔をしなかった。
「記憶を取り戻されてから、ようやく心身ともに落ち着かれてきたところです」
そこへ、武生という重圧をかけては、元の木阿弥になるのではないか。
そう、医師は危惧していた。
「涼雅に、立ち会ってもらおうかと思うんです」
「能登くんに、ですか」
ふむ、と医師はうなずいた。
確かに、今の翠には、涼雅は無くてはならない存在だ。
彼が翠の、心の支えになっている。
「そういう条件付きならば、良いでしょう」
「ありがとうございます!」
医師は、涼雅の方を見た。
「面談中は、翠さまの御様子を細やかに観察してください。心身に変調があられたら、すぐにストップです」
「解りました」
翠が面談を希望していることを武生に伝える約束をして、医師は坂城家へと戻って行った。
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