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第十五章・7
「こんばんは、お父様。お久しぶりです」
「うん。掛けなさい」
翠は父の勧めるソファに掛け、涼雅はその脇に立って控えた。
「もう、具合が良いそうじゃないか。医者に聞いた」
「はい、おかげさまで」
では、もう大丈夫だな。
そう言って武生は、傍に会った写真を二枚、翠に差し出した。
「明日、お前が会う方たちだ。午前は、竹下さま。午後は、有島さまだ」
有島、と聞いて翠は心臓を掴まれる思いだった。
そんな息子の様子をいたわりもせず、武生は身勝手な話を進めた。
「有島さまは一度破談になったが、病んだお前でも構わないと言ってくださってな」
「お待ちください、お父様。僕は御二方とお会いして、どうするのでしょう?」
「察しの鈍いやつだな。何度も言わせるな、翠。結婚しなさい、と言ってるんだ」
そんなことだろうと思った!
翠は、唇を噛んだ。
やはりお父様は、僕をチェスの駒としか見てくださらないんだ!
だが、翠は以前の翠とは違っていた。
涼雅を愛し、彼に愛され、心身ともに強く成長していた。
「お父様、このお話はお断りします」
そう、ハッキリと叩きつけた。
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