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第十五章・8
突然の息子の反逆に、武生は眉をひそめた。
「坂城家の人間が、個人の好き嫌いで人生を決めるんじゃない」
全ては、家のため。
「オメガに生まれたお前は、家柄の良い優秀なアルファの男と結婚することこそ、幸せなのだ」
「お父様が何とおっしゃろうと、僕はこの方たちと。特に有島さまとは、会いたくありません」
「身勝手を言うな!」
父の恫喝に、翠はすくみあがった。
体が強張り、喉が苦しく締まる。
(ダメ。声が出ない)
幼い頃から植え付けられた父への絶対的な恐怖は、そう簡単には拭い去ることができなかった。
「解ったら、明日は大人しくお二人と会いなさい。いいな!」
「お待ちください、旦那様」
そこに、涼雅が割って入った。
翠は、救われる思いだった。
(そうだ。涼雅がいてくれる。涼雅がいてくれたんだ)
凛としたまなざしで、涼雅は武生を見ていた。
涼雅もまた、翠と結ばれ強くなっていたのだ。
この坂城家の当主と、堂々と渡り合う覚悟で口を開いた。
戦いの、駆け引きの幕は上がった。
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