108 / 140
第十六章 突然のプロポーズ
「お待ちください、旦那様」
「能登か。誰もお前の意見など訊いてはいない」
「翠さまは、心身のお具合がようやく落ち着かれたところ。そこにまたお見合いは、毒でございます」
翠のみならず、能登までもが。
武生は、二人の反抗に驚いていた。
「治ったからこそ、急いでいるのだ。また具合が悪くなられては困るからな」
涼雅は、目を細めた。
(可哀想な、翠)
闘病をねぎらう言葉もなく、回復を喜ぶ声もなく、ただ道具として嫁がされる。
この場にいるのは、もはや父ではないのだろう。
「今しばらく、翠さまをわたくしと生活させてはいただけないでしょうか」
せめて、もう少し丈夫になられるまで。
そう、涼雅は願ってみたが、武生の考えは変わらなかった。
「お前と一緒に暮らすと、どうにも反抗心が生まれるようだ。翠は、屋敷に戻す」
そして、結婚の準備を急ぐ。
武生の言葉に、涼雅は切り札を使うことにした。
「では、有島さまの代わりに、推薦したい人物がおります」
有島は、初対面で翠の純潔を奪った罪人だ。
そこを涼雅は、突いていた。
ともだちにシェアしよう!