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第十六章 突然のプロポーズ

「お待ちください、旦那様」 「能登か。誰もお前の意見など訊いてはいない」 「翠さまは、心身のお具合がようやく落ち着かれたところ。そこにまたお見合いは、毒でございます」  翠のみならず、能登までもが。  武生は、二人の反抗に驚いていた。 「治ったからこそ、急いでいるのだ。また具合が悪くなられては困るからな」  涼雅は、目を細めた。 (可哀想な、翠)  闘病をねぎらう言葉もなく、回復を喜ぶ声もなく、ただ道具として嫁がされる。  この場にいるのは、もはや父ではないのだろう。 「今しばらく、翠さまをわたくしと生活させてはいただけないでしょうか」  せめて、もう少し丈夫になられるまで。  そう、涼雅は願ってみたが、武生の考えは変わらなかった。 「お前と一緒に暮らすと、どうにも反抗心が生まれるようだ。翠は、屋敷に戻す」  そして、結婚の準備を急ぐ。  武生の言葉に、涼雅は切り札を使うことにした。 「では、有島さまの代わりに、推薦したい人物がおります」  有島は、初対面で翠の純潔を奪った罪人だ。  そこを涼雅は、突いていた。

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