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第十六章・3

「わたくしも、翠さまを預からせていただく身として、それなりの背景を身につけるよう努力いたしました」 「自営業のひなびたカフェなど、自慢するつもりか?」  落ち着いた物言いの涼雅を、武生は鼻で笑った。 「有島さんの代わりになりたいのなら、せめて同程度の資産を提示して見せるんだな」 「資産、でございますか」  それならば、と涼雅は静かに畳みかけた。 「父の残した遺産。それを資金にして、株取引を始めました。今では、坂城テック株式会社の大株主です」  いつの間に、と武生はわずかに表情を変えた。  坂城テックは、武生の次男が社長を務める会社だ。  だが、涼雅はそれだけでは止まらなかった。 「また、海外に金鉱を買っております」 「ふん。山師ふぜいか」 「その山が、当たりまして。かなり大きな鉱脈に行き当たりました」  金は装飾や投資などばかりではなく、貴重な工業用品でもある。  電機半導体としての利用は、時代を追うごとに需要が高まってきているのだ。 「すでに海外の半導体メーカー数社から、打診をいただいております」  思いもかけない涼雅の資産公開に、武生は飲まれかけていた。 「口ばかり達者だな。それが嘘でないという、証明は?」 「お調べになられても、構いません。わたくしが旦那様に、嘘を並べるなど到底できません」  自信満々の涼雅は、翠を連れて屋敷から出て行った時とは、まるで別人だった。

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