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第十六章・7
歌が聴こえなくなった、と思ったら、翠はナビシートですやすや眠っていた。
「頑張ったな、翠」
あの、恐怖の対象でしかなかった父親に、敢然と立ち向かったのだ。
『お父様、このお話はお断りします』
そう、きっぱりと縁談を断ってみせた勇気。
翠は、もう父親のチェスの駒などではないのだ。
車をガレージに入れても、翠は起きなかった。
それだけ、疲れたのだろう。
涼雅は彼を背負い、家へ入った。
一階のカフェを横切る。
明日も、翠はここでハーブティーを淹れる。
とびきりの、笑顔で。
そう考えると、涼雅も自然と笑顔になった。
「旦那様、お笑いになられたな。そういえば」
翠の素直な笑顔につられるように、口元をほころばせた武生。
彼のああいう表情を見るのは、涼雅も久しぶりだ。
「翠が魔法をかけたんだな、きっと」
小さな魔法使いは、涼雅の背中でぐっすり眠っていた。
幸せな夢を、見ていた。
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