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第十七章・2
「僕、僕ね。もう一生結婚なんかできない、って思ってた」
純潔を踏みにじられ、過酷なトラウマに悩まされた翠だ。
「誰も、誰とも愛し合えないって、思ってたんだ」
「ああ、泣かないでくれ」
涼雅は翠の髪を撫でた。
優しく、何度も撫でた。
泣きじゃくる翠を、笑顔にするにはどうすればいいんだ?
答えは、無理に出す必要はない。
泣きたい時は、泣けばいい。
その小さな体を抱きしめ、涼雅は髪を撫でた。
「疲れたからな。うんと泣いていいんだよ、翠」
「涼雅……」
本当に。
この数か月、翠は必死になって戦ったのだ。
過去を振り切り、愛を知り、父と向き合った。
緊張の糸が、切れたのだろう。
翠は子どものように、泣き続けた。
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