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第十七章・3
「ん……。でも、もう泣き止まなきゃ」
「どうした、急に」
「目が腫れて、明日お店に立てなくなっちゃう」
すでに赤く腫れてきた目で、翠は細く笑った。
その瞼に、涼雅はキスをした。
「おまじないだ。瞼が、腫れませんように」
「ありがとう」
ひとしきり泣くと、翠はよく動き始めた。
シャワーを浴び、歯を磨き、パジャマに着替えて、ベッドに上がった。
いつもの、生活パターンだ。
そして、いつものように朝を迎えて、お茶を淹れるのだろう。
でも……。
「でも、一つだけ大きく変わったことがあるよね」
「そうだな」
「涼雅。本当に、僕と結婚してくれる?」
「もちろんだ」
だったら、と翠はベッドの中で涼雅を抱きしめた。
「ちゃんと、プロポーズして」
おいおい、と涼雅は笑った。
「寝ながらするもんじゃないだろう、プロポーズは」
「でも、聞きたい」
何度でも、聞きたいんだ。
愛の言葉を。
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