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第十八章・5
涼雅がカウンターに戻り、翠にそっと囁いた。
「翠、お茶を一杯淹れてくれ」
「で、でも。僕、僕……」
大丈夫、とその手を取った。
「私が、ついてる」
「涼雅」
「これまで、幾つも難関を乗り越えてきたんだ。有島も、乗り越えて見せようじゃないか」
「できるかな。僕、できるかな」
「できるさ」
うん、とうなずき、翠は立ち上がった。
なるべく有島を視界に入れないようにして、ハーブティーを淹れる準備をする。
そんな彼を、有島は舐めるように見ていた。
(翠くんは、私のお気に入りなんだよ。ぜひ、この手にしたい)
いやらしい有島の視線に、気味の悪い汗をかきながら、翠は必死でお茶を淹れた。
レモングラスにカルダモンが、さっぱりとした香りを運ぶ。
そこにブレンドしたバラの香りが、気持ちを穏やかにしてくれる。
(できた……)
一杯のハーブティーが、翠の心を平常にもどしてくれていた。
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