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第十八章・6
「うん、美味い。でも、どうして坂城家の御曹司が、こんなカフェでお茶なんか淹れてるの?」
「それは、静養のためです」
「静養? ああ、体を壊したんだったね。何の病気?」
無神経にも、ほどがある。
震える翠にぴったりと寄り添い、涼雅は反撃に出た。
「お言葉ですが、有島さま。こんなところで油を売っていても、よろしいので?」
「今日は、翠くんとランチするつもりだから。まぁ、一日オフくらいの気持ちだよ」
「おそらく、有島電工の中枢が大変なことになっていると思うのですが」
何で君に、そんなことが解るの。
馬鹿にしたような顔つきで、有島は涼雅を見た。
「一介のカフェの店長が、上場企業の内情のことなんか口にしないで欲しいなぁ」
「実はわたくし、その有島電工の株主でして」
何? と有島は初めて、真面目に涼雅を見た。
「今まさに、大量買いさせていただいております。すでに、大株主です」
さて、と今度は涼雅が有島を馬鹿にしたような表情だ。
「どうしましょうか、この株。一気に売って値崩れを起こさせるか、それとも」
それとも。
「株主総会で、あなたを社長の座から引きずり下ろすことも、できる」
「カフェの店長ふぜいが、どうして」
「こう見えても、手広く事業を始めておりましてね」
この、翠のために。
「翠は、私の大切なパートナー。その気高い精神を汚染した罪、今からじっくりと償ってもらいましょう」
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