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第十九章 未来へ
梅雨が明け、眩しい夏がやって来た。
郊外に建つカフェ・グリーンなので、周囲には緑が多い。
セミの声も、目立つようになってきた。
そんな、ある日。
開店と同時に、客が現れた。
常連とは違う、初めての客。
坂城 武生だった。
仕立てたばかりのスーツをぴしりと着込み、一人で。
秘書も従えずに、店内へ入って来た。
「翠くん、見て。ナイスミドルの、イケメンさん」
青海の小声に、翠はグラスを拭く手を休めて、顔を上げた。
「お父様!」
「え? お父様!?」
その声に、カウンター奥でコーヒー豆を挽いていた涼雅も顔を出した。
「旦那様……」
「待たせたな、能登。そして、翠」
そつのない身のこなしで、武生はカウンターに掛けた。
「お一人で、いらっしゃったのですか?」
「ああ、一人だ。極めてプライベートな要件だからな」
そう言って武生は、翠を見た。
「お前が淹れると美味いという、ハーブティーを一つ」
「あ、はい!」
まさか、お父様が。
まさか、旦那様が。
(本当に、このカフェに来てくださるなんて!)
翠と涼雅は、この突然の武生の訪問に、困惑していた。
彼の真意を、測りかねていた。
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