134 / 140

第十九章・3

 お屋敷にいた頃には、お茶を淹れる趣味を叱られていた。  使用人の真似事など、坂城の恥だと怒られていた。  それを、褒めてくださるなんて!  涙目の翠の隣には、彼を守るように涼雅が寄り添っている。  武生は、そんな涼雅に声をかけた。 「能登。翠を一人前に導いてくれたこと、礼を言うぞ」 「もったいないお言葉です」  しかし、旦那様は翠のお茶を飲みに、わざわざこのカフェに?  涼雅は、翠より少しだけ周りが見えていた。  ただそれだけのために、御勤務を割いてここにお見えになるとは思えないが……。 「今日は、返事を伝えに来た」  やはり、と涼雅は気を引き締めた。  以前、坂城邸で交わした言葉を、涼雅は忘れてはいなかった。 『それほど言うなら、調査してやる。お前が、坂城家に有用な人間かを、な』  涼雅の起こした事業が、武生の目にかなえば。 (旦那様に認めていただければ、翠との結婚を許していただけるはず!) 「目つきが悪いぞ、能登。そんなに私が信用できないか?」 「いえ、決してそのような」  武生は、少し口の端を上げた。

ともだちにシェアしよう!