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第十九章・4

「能登のハッタリは、意外なことに真実だった。お前の会社は、実に好成績で運用されているようだな」 「恐れ入ります」 「生きのいい、若々しい企業だ。基盤となる鉱山の評判も、悪くない」  そこで武生は、スーツのポケットからハンカチを取り出した。 「翠に、これを託そう」 「僕に、ですか?」  ハンカチには、大切に何かが包んである。  広げてみると、そこにはダイヤモンドの埋め込まれた、美しい指輪が輝いていた。 「亡くなった私の妻。翠の母の、形見だ」 「お母様の」  翠が幼い頃、病で亡くなった母。  写真でしか、その面立ちの覚えはない。 (そのお母様の、大切な遺品) 「でも、お母様の指輪にしては、少々サイズが大きくはないですか?」 「サイズは、男性用に直してある。そこに突っ立っている、大きな男の指にぴったりのはずだ」  は、と涼雅は我に返った。  一瞬、武生の話していることの意味が、解らなかった。  だがしかし。 「では、旦那様!」 「坂城家の家宝の一つを、翠の手から能登に渡す」  武生に促され、翠は震える手で涼雅の指にリングをはめた。

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