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第十九章・5
翠の目には、もう涙はにじんではいなかった。
大粒になって、ぽろぽろと零れていた。
「涼雅、よく似合うよ」
「ありがとう、翠」
そして。
「旦那様、ありがとうございます!」
「能登を、翠のパートナーに認めよう」
幸せな若者二人を前に、武生はうなずいた。
「ただ、能登が万が一破産でもしたら、翠はすぐに坂城家に連れ戻すからな」
「肝に銘じます」
その意志のこもった力強い涼雅の声に、武生は満足したようだった。
残りのハーブティーを干すと、軽やかな身ごなしで立ち上がった。
「後で、結婚披露宴に招待して欲しい要人のリストを送る。能登のビジネスにも、役立つはずだ」
では、と武生は鮮やかに去ってゆく。
翠は思わず、その後を追っていた。
「お父様! お父様も、式には出てくださいますよね!?」
「日取りが決まったら、すぐに教えなさい。スケジュールを、調整しよう」
「ありがとうございます……!」
涼雅もその傍らに立ち、深く礼をしていた。
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