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第十九章・6
「私は、幸せだ」
「なに、涼雅。突然」
カフェを閉め、二階のソファで憩いながら、涼雅は改めてしげしげと指輪を眺めていた。
隣には、翠がいる。
その肩を抱き、涼雅は翠の髪に顔を軽くうずめた。
「夢にまで見てた。翠と私は、一緒になれるんだ」
「涼雅、頑張ってくれてありがとう」
カフェの経営の傍ら投資をし、海外に大きな買い物までした涼雅だ。
うまく当たったからよかったものの、ハズレてしまえばそれまでだったはずだ。
「僕の知らないところで、準備は進めていてくれたんだね」
「旦那様の気に入らなければ、全て捨てるつもりでいたよ」
「僕も?」
まさか、と涼雅は顔を上げた。
「翠だけは、手放さない。さらって、どこかへ逃げる気でいた」
「嬉しい!」
翠は、涼雅に抱きついた。
涼雅となら、どこへでも行くよ。
そんな翠に、涼雅は微笑んだ。
「新婚旅行は、どこへ行きたい?」
「カフェがあるから、あまり長くは留守にできないね。国内がいいな」
「坂城家の御曹司なんだ。海外へ連れて行くよ」
カフェは、バリスタの本田さんに任せておけば、大丈夫。
涼雅の言葉に、翠は少しだけ不安げな表情になった。
「僕、結婚したらカフェを辞めなきゃダメ?」
「そうだなぁ」
涼雅は、考えた。
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