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第3話

「違うんですか?…その、手に持っているもの。」 「………?」 僕はまず、この男の正気を疑った。 だって普通に考えておかしい。 僕のような、汚いΩに自ら好んで話しかけてくるような変わり者なんているはずがないから。 念のため、他に誰か客がいるのかも知れないと辺りを見渡したが、 この店の中にいるのは僕とこの男、 それからカウンター越しに僕を睨む店員のたった3人だけ。 …という事はやっぱり 「貴方も絵描きなんですか?」 この声の主は、 僕に向かってその言葉を放っているというわけで。 「…ちが、います……。 僕は絵描きじゃ、ない…。」 人と目があったのも 作家様以外に声をかけられたのも 正直、生まれて初めてで 「…こんなに服に絵の具がついているのに 使っているのは君じゃないの?」 「…っ、頼まれただけです!!」 この胸が締め付けられるような酷い緊張感が初めてで 僕はとっさに袋を抱えて逃げるように店を出た。 走って、走って、たくさん転んだ。 サイズの合っていない破れた靴は走りにくくて まともに与えられない食事では そもそも走るだけの力が存在しない。 それでも走った。 言われた言葉がなかなか頭を離れてくれないことも 汚いと言われなかったことも 作家様や店員のような目で僕を見なかったことも その何もかもが怖かった。 太陽のように眩しい彼が怖くてたまらなかった。

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