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第6話

ああ、僕は 絵描きなんかじゃないよ、名前も知らない異国の人。 僕は作家様に笑われるような“お絵かき”しか出来ない無能なんだ。 期待に応えられなくてごめんなさい。 貴方に言われた言葉で調子に乗って、 一瞬でも夢を見てしまった僕を どうか笑ってよ。 「…っそ。くそ、くそ、くそ…!」 そんなに早く完成させて欲しいなら やってやるよ。 日が昇る前までに、お絵かきしか出来ないクソΩが。 僕は、まだ塗りたてのそこに構わず色を重ねていった。 胸の横のステンドグラスを赤く塗って、それが滲んで胸に移った。 はは。 まるでマリアが血を流しているみたいだ。 いいじゃん、こんなマリアも。 鐘、ステンドグラス、天使、マリア、順番なんて知らない。 乾いたかどうかなんて知らない。 気が付けば何人もいたはずの天使は僕の手によって塗り潰され、何処かに消えていた。 背景なんて呼べるものはそこにはなかった。 歪んだ闇の中、ただ1人取り残されたマリアだけが 血濡れになって静かに笑っている。 「………ふ。完成。」 お世辞にも聖母なんていう言葉が似合うとは言えない 恐ろしい一枚の絵が完成したのは 夜更け間近の事だった。 あとは 作家様がまだ眠っているうちに 早くここから出ないと。 あいにく僕は、金も着替えも何一つ持っていない。 どうせ逃げたところで3日もすれば衰弱して飢え死ぬだろう。 …それでも。 真っ暗なマリアでも、初めて自由に描いたそれは どこまでも僕に満足感を与えてくれた。 きっとこのままここにいても、作家様に殺されるか …うなじに歯を立てられて、一生この檻の中で死んだ方がマシのような生活を続けていくんだろう。 だったら、外で自由に描いてみたい。 どんな選択をしようとも、その直ぐそばに死が迫っているのは同じだ。 僕は息を殺し、作家様を起こさないように重い扉を開けた。

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