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第7話

まだ日が昇らないうちに見る外の世界はなんとも幻想的だった。 遠くで鳥の鳴き声が微かに聞こえるだけで あとは静寂。 人の気配もなく、風は乾いていて涼しい。 通ったこともない道を、 薄闇の中、おぼつかない足取りで歩く。 誰もいない公園に行けば、 風に揺れるブランコと、まだ眠っている噴水。 恐らくこの街の中心にあたる場所でも、 人がいなければ時計塔の針の音だけが響いていた。 世界は広い。 世界は大きい。 僕の知らない事は、まだこの世にたくさんある。 どうせ、すぐに消えてしまうような命の火。 それなら、残りわずかなこの時間で 知らないものを知ろうとしたっていいじゃないか。 針の音を聴きながら、頭の中で絵を描いた。 僕の金で買ったわけではない道具を持ち出すのは気が引けて、何一つ持たずに飛び出したから。 今の僕には絵を描くキャンバスも筆も、絵の具も何もない。 だけど、それを思い描く事は出来る。 目を閉じて、真っ白なキャンバスを置いた。 パレットに乗せた色とりどりの絵の具。 たくさん混ぜて、深みのある色を作るのもいい 昨日、店で見つけた名前も知らないあの色を単色で使うのも良い。 形に残らないそれをどんなに描いてみたところで、 昨夜のように馬鹿にされることも、捨てられることもない。 ここだけは、僕の自由だ。 あっという間に完成した一つの絵は、 まだ見たことのないものだった。 太陽すら見ることの叶わない作業部屋で、 何度も思い描いた日が昇る瞬間。 ふと、目を開いてみれば 先ほどよりほんの少し、空が白んでいるように思える。 …もしかしたら、見れるかもしれない。 僕はとにかく建物の少ない場所を探した。 微かに感じる潮の香りを頼りに、この街の場所も形もわからないくせに、海を目指して前に進んだ。 思い描いたそれは、煌めく海のずっとずっと沖から この世界全てを包み込むような温かな光を放ちながらゆっくりと顔を出すんだ。 想像して何度も震えた。 何度も描いて、何度も諦めた。 その光景を目に焼き付けられるかもしれない。

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