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第10話

時間にしてたったの30分にも満たなかったと思う。 時折滲んではみ出してしまったそれもまた、 彼の瞳の中だけでは収まりきらなかった太陽の壮大さが出ていて良い。 「………できた。」 「これは…?」 「さっき見た景色…です。 あなたの瞳の中に映った日の出が ……これまでの人生で一番綺麗でした。」 上手いだなんて嘘でも言えない どこもかしこも滲んで混じり合ったそれ。 ふと我に返ってみれば、折角貸してくれた安いわけでもない多数の絵の具と繊細な筆を使って …一体僕はなんてことをしてしまったんだろう。 「ご…っ、ごめんなさい、僕…。」 「どうして謝るの? 君の見る景色は………こんなに素敵なんだね。」 彼の瞳には、心なしか水分を多く含んでいるような気がする。 目の中いっぱいに溜まったそれは、今にもこぼれ落ちてしまいそうだ。 先ほどよりいくらか高く昇った太陽は、そんな彼の瞳を明るく照らす。 日の光が反射して、キラキラと輝く様は どこまでも儚く愛おしく また、一番綺麗なもの見つけた。 そう思った。 「…ねえ、君は頼まれたって言っていたよね。」 「…?はい。」 「それは誰から?どこかのアトリエで雇われているの?」 雇われる…? そんな立派なものじゃないよ、僕のは。 初めて人に絵を褒められたのが嬉しくて 僕はつい、言わなくても良いことを口走ってしまった。 調子に乗るなよって、作家様によく言われていたけどこのことか。 気をつけないと。 …まあ、その作家様の作業部屋にももう戻ることはできないだろうから 僕が絵を描くのも、誰かと会話を交わすのも、 これが最後だと思うのが妥当。 …だったら、少しくらい 僕の話を聞いてくれる彼に時間を取らせたって許してもらえるかな。 …僕は、これまでのことを全て彼に話した。 雇われなんて言えない立場、 そこで強いられてきたこと。 違う世界で生きてきた彼に、こんな話をするのはやはりいけなかっただろうか。 一通りの話を終えて彼に視線を向ければーー。 彼は泣いていた。 「…あの、ど…どうして……あなたが泣くんですか?」 僕は何かいけないことをしてしまっただろうか。

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